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  • 執筆者の写真すけきよ

原稿が終わると原稿がはじまる

カップリングなしの、尾VS杉。


ここから備忘録兼、予告



時計の秒針が進むにつれ、焦りは諦めに変わっていった。

一秒進むごとに、今日という日がが終わる。午前0時を目前にし、新たな日付けを迎えようと、秒針は人々の感情に左右されることなく時を刻んでいく。それは残酷だった。越えてはいけない、終わってはいけない一日が、終わろうとしている瞬間。時を止める手段もなく、残り僅かな時間が過ぎる。

誰もが最善を尽くした。だが、間に合わなかった。

ー 時効。

2005年に起こった、中学生誘拐事件が、時効を迎えた。

十五年前。東京都江戸川区で中学二年生の男子が行方不明になった。

家族や学校関係者の証言から、少年に家出の動機はなかったとされ、当初は誘拐事件として捜査が開始された。

だが、身代金の要求はなく、仮に誘拐だったとしても犯人に心当たりもない。近隣の不審者情報もなかったため捜査は困難を極めた。

そして事件から半年後、少年の自宅から2km離れた山林の中で、被害者と思われる遺体が発見された。

遺体の首にはロープの痕があり、遺体は木の下で発見された。

遺体の首にはロープが巻かれ、途切れたロープの端は木の枝からぶら下がっていた。司法解剖の結果、遺体は死後半年ほどと断定。少年は誘拐ではなく、失踪からの自殺。と警察が判断し、捜査本部は解散した。

納得のいかない遺族は誘拐事件としての捜査続行を訴えた。

自殺だったとしても、遺書もなければ動機もない。可能性としては、誘拐の方が大いにあると担当の警察官に捜査の打ち切りを取り消すようにと懇願した。しかし家族の訴えも虚しく、捜査本部が解散した翌年。少年の家に、不審な電話がかかってきた。

「おまえ達は、誘拐犯を知っているはずだ」

相手は受話口の向こうで、それだけを言って一方的に電話を切った。

もちろん被害者家族はこの事をすぐに警察に相談した。だが、事件を知った誰かのいたずらだと、まともに取り合おうとはしなかった。


刑事課一係。慌ただしく部屋を出入りする刑事たちは、内線のコール音に耳を貸さない。

受話器を手にしたのは、今年、刑事課一係に配属されたばかりの杉元佐一。

「門倉さん、内線です」

内線は庁舎受付からだった。門倉の顔は「めんどうだ」と口にしているようなものだった。杉元から受話器を受け取り、「はい、門倉」と、これまた気だるそうな声だ。杉元には、彼が刑事課一係に配属されているのが不思議だった。

「はぁ?いたずらじゃないのか」

門倉の声のトーンが突然変わった。杉元は思わず書類に落としていた視線を、門倉に向けた。

「おまえも来い」

受話器を乱暴に置いたかと思えば、門倉は杉元の肩を叩いて、ジャケットに袖を通しながら部屋を出て行った。杉元は一瞬遅れて「あ、はい!」と答えて、手にしていた書類をデスクに置くと、門倉の背中を追いかけた。


三階から階段を一気に駆け下りる。門倉は息を切らして、受付のカウンターに両手をついた。女性警察官は門倉を見るなり、眉をひそめてから、視線である人物がいる方を指した。

受付で門倉を呼び出した男だ。門倉はその男の名前に覚えがあった。いや、きっと生涯忘れることはできないだろう。

なにせその男は、門倉が担当した誘拐事件の被害者であり、その事件は先日、時効を迎えたばかりだった。つまり未解決事件の被害者だ。

門倉はおそるおそる、女性警察官の視線をなぞった。その先には、黒いコートを着た三十代前後の男が立っていた。

「はじめまして、門倉刑事。尾形百之助です」

未解決誘拐事件の被害者の名前を、男は名乗り、静かに笑みをたたえた。

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