半獣の赤子を預けられた。
正確に言えば擦りつけられた。処分されるはずだった「それ」を押しつけることで、欠けた身体の半分を埋めようとしたのか。抑止力としてか、同情か。真意はわからないが、俺はそんなものより実力で埋めたかった。長子のはずの俺には当主となるべく血が半分しか流れていない。妾腹の子である俺に残された道は、ただ本妻の子、義弟である勇作の影となり家業の真似事を担うだけ。それでも抗いたいという気持ちは、本能か。理論的に存在しえぬ魔物を狩る一族の血が流れている証明か。
俺に与えられた従者は半獣。狼と人間の間の子。赤子だったそいつをはじめはペットのように扱っていたが、どうやらこいつにはペットとしての意識はないらしい。俺を主(あるじ)と思い、鬱陶しいくらいに慕い、従者として常に傍に仕え護ろうとしている。半獣のおまえに何ができる。俺もおまえも半端な生き物同士、ホンモノにはなれないのだ。
「オガタ!今日は散歩いかねぇの?あ、散歩じゃなくて、見回りってやつ!」
この通り半獣どころか犬だ。三年も経てば犬年齢に従い成長し、今じゃペットというよりはただのでかい犬と成人男性の間を行き来している存在。獣の血のせいか、人型になっても服を着ることを好まず、成長しても全裸で部屋をうろつき、今もこうしていつの間にか布団に潜り込み目覚ましよりも早くに叩き起されている。全裸で。俺の布団に潜り込み。全裸で。
「おめぇ、勝手に布団に入ってくるなって言ってんだろうが!この馬鹿犬が!そして腰を振るな!」
「犬じゃねぇし。人狼。だってオガタがなかなか起きねぇから」
「まだ朝の五時だろ」
「日が出る前に見回りするんだろー。なあ行こうぜー」
「全裸の男を連れて歩けるかよ。しょっぴかれるぞ」
「外に出る時は服着るって。しょっぴなんとかって何?楽しいの?うまいの?」
これである。
全裸の成人男性に大型犬のようにまとわりつかれる、日常。加えて満月の夜に、俺はうっかり心を許してしまった。理性のたがが外れた獣相手に、突き放すにはとうに情が湧いていて甘んじて欲情を受け入れてしまった。人間も満月の力に狂わされるのかもしれない。そうだと思いたい。死と隣り合わせの家業に身を置く人間に、深い情は命取りだ。ただのでかい犬っころとして危険から遠ざけておくつもりだったのに。心と身体を許してしまったあの日から、半獣である佐一は俺の仕事にまでついてくるようになった。そして一端にも牙を向き、魔物の首に食らいつく。そのせいで身体には生傷が絶えなくなってしまった。傷だらけの身体になっても尚、いよいよ俺を出し抜いて飛びかかるようになってしまった。哀れな半獣。俺とおまえは似た者同士だ。
「見回りにいくんだろ。腰を擦り付けるのをやめろ」
「すぐ終わるから大丈夫」
いつからバカ犬の我儘に付き合うようになってしまったのか。どちらも似ているから。半人と半獣。ひとつになってちょうどいいのかもしれない。空が白んでいく前に、終わらせよう。
Comentários