特にオチはない。
カラン。入口ドアの鈴が鳴る。
ここはスナック山猫。尾形ママがひとりで切り盛りする、ママの大切な城だ。
「佐一。アンタまた喧嘩してきたのか?」
待ってろ今おしぼり…と尾形ママはカウンターの下に頭を突っ込んで、スチームケースから二、三本丁寧に丸めたおしぼりを取り出す。
「向こうから喧嘩ふっかけてきたんだよ…ってて」
「だとしても、またアンタ返り討ちにして、ボロ雑巾みたいにして、路地裏に捨ててきたんだろ?」
尾形ママは杉元の皮膚についた血をおしぼりで拭う。杉元は言い当てられて口ごもる。
「ママ〜!俺にも早くウーロンハイ作ってぇ〜」
カウンターの一番奧で白石が声を上げる。
「うるせぇ!そこにてめぇのボトルがあんだろ!てめぇで勝手に作って飲んでろ!今俺は佐一の手当で忙しいんだ!」
「くぅん」
「俺はいいから作ってやれよ。どうせまた、鏡月のボトルに大樹氷入れ替えて、安酒飲ませてんだろ?」
「おい佐一、その話は内緒だっていっただろ?大丈夫、アンタのボトルの中身は正真正銘、鏡月だから」
「知ってるよ。この店で本物の鏡月は、俺のボトルだけだって」
「あたりまえだろ…」
「あ、俺もう帰るわ。ごちそうさまでーす」
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